げ]十二月二十四日
[#改段]
〔昭和十五年(一九四〇)〕
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庚辰元旦
[#ここで字下げ終わり]
六十二翁自在身 六十二翁自在の身、
夢描妙境樂清貧 夢に妙境を描いて清貧を楽む。
幽蘭獨吐深山曲 幽蘭ひとり吐く深山の曲、
殘月斜懸野水濱 残月斜にかゝる野水の浜。
[#地から1字上げ]一月一日
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還暦の祝賀を受けし人々へ、自ら描ける落葉の絵に自作の詩歌を題して贈りけるに、菅原昌人君より、風をいたみ彼のも此のもに散る落葉焚かば燃ゆべきしづけさに居り、との歌を寄せられければ、その返しにとて
[#ここで字下げ終わり]
老いらくの身をも落葉にたとへけり焚きて燃ゆべき我ならなくに[#地から1字上げ]一月二十五日
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題良寛上人畫像
[#ここで字下げ終わり]
欲學書先須學人 書を學ばんとすれば先づ須らく人を学ぶべし、
形骸相似盡遺眞 形骸相似るも尽く真を遺ふ。
千金求得良寛字 千金求め得良寛の字、
但莫由沽這裡貧 たゞ這裡の貧を沽ふに由なし。
[#地から1字上げ]二月四日
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腥風不已
[#ここで字下げ終わり]
戰禍未收時未春 戦禍未だ収まらず時未だ春ならず、
天荒地裂鳥魚瞋 天荒れ地裂けて鳥魚いかる。
何幸潛身殘簡裡 何の幸ぞ身を潜む残簡の裡、
腥風吹屋不吹身 腥風屋を吹けども身を吹かず。
[#地から1字上げ]三月二日
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牢愁の思出
[#ここで字下げ終わり]
春の日のくれゆく空のあはれさはひとりながめて牢にゐし時[#地から1字上げ]四月十二日
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近頃頻りに疲労を覚え、やがて寝付くべきか
と思ふほどなり、小詩を賦して自ら慰む
[#ここで字下げ終わり]
[#ここから改行天付き、折り返して1字下げ]
弱いからだが段々に弱くなり、
残りの力もいよ/\乏しくなつて来た。
ちよつと人を尋ねても熱を出し、
書を書いても熱を出し、
絵を描いても熱を出し、
碁を打つても熱を出す。
私は私の生涯のすでに終りに近づきつゝあることを感じる。
やがて寝付くやうになるのかも知れない。
だが私は別に悲みもしない。
過去六十年の生涯において、
何の幸ぞ!
私はしたいと思ふこと、せねばならぬと思ふことを、
力相応、思ふ存分にやつて来て、
今は早
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