2−61] 空しく危欄に倚りて北※[#「氓のへん+おおざと」、第3水準1−92−61]を望む。
[#地から1字上げ]一月八日
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津田青楓氏「君と見て久しくなりぬこのころはおとさたもなしいかにしたまふ」の歌を寄せられたるに答ふ
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朝寝して虫ばみ本をつくろひて茶を飲みをれば一日はすぎぬ
人は老い着物もやれて綿出でぬよごれと見しは綿にてありき[#地から1字上げ]二月二十五日
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老來始得閑
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夙吾號閉戸閑人 夙にわれ閉戸閑人と号す、
晩歳斯名始作眞 晩歳この名始めて真となる。
天以餘生恩此叟 天は余生を以てこの叟をめぐみ、
教爲高臥自由身 高臥自由の身となさしむ。
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余三十歳以前已號閉戸閑人以及于今也
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[#地から1字上げ]三月六日
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老後無事
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たとひ力は乏しくも
出し切つたと思ふこゝろの安けさよ。
捨て果てし身の
なほもいのちのあるまゝに、
飢え来ればすなはち食ひ、
渇き来ればすなはち飲み、
疲れ去ればすなはち眠る。
古人いふ無事是れ貴人。
羨む人は世になくも、
われはひとりわれを羨む。
[#地から1字上げ]六月十九日
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青楓氏を訪ひて遇はず
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きかぬベル押しつゝ君が門のとに物乞ふ如く立つはさびしも[#地から1字上げ]〔七月一日〕
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出獄の前日を思ひ起して 二首
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わかれぞと登りて見れば荒川や潮みちぬらし水さかのぼる
または見ぬ庭ぞと思ふ庭の面に真紅のダリヤ咲きてありしか[#地から1字上げ]八月七日
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ことし春の彼岸、郷里より取寄せて百日草、風船かづら、花びし草、朝鮮朝顔などの種子を蒔けり。庭狭ければ思ふに任せざれども、この頃いづれもそくばくの花をつけたり。中につき百日草は、祖母の住み給ひし離家の庭前に咲き乱れ居るを、幼時より見慣れ来し花なれば、ひなびたれどもいと懐し
[#ここで字下げ終わり]
ふるさとの種子と思へばなつかしや百日草の庭隅に咲く
[#地から1字上げ]八月七日
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獄中の有章君に寄す
[#ここで字下げ終わり]
あはれいか
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