反感を残す。場合によっては、その反感がいつまでも消えず、時々思い出しては反芻《はんすう》するうちに、次第に苦味を増しさえすることがある。
 私のこうした傾向は人並より強いらしく思われる。京都にいる娘から羊羹《ようかん》など送って呉れると、同じ店の同じ種類の製品ても、友人に貰った物より娘の呉れた物の方を、私は遥にうまく食べる。格段に味が違うので、私は客観的に品質が違うのだと主張することがあるが、妻などは笑って相手にしないから、これは私の味覚が感情によって左右されるのかも知れない。(この一文を書いて四ヶ月ばかり経ってから、私はふと高青邱の「呉中の新旧、遠く新酒を寄す」と題する詩に、「双壷遠く寄せて碧香新たに、酒内情多くして人を酔はしめ易し。上国|豈《あ》に千日の醸なからむや、独り憐む此は是れ故郷の春。」というのがあるのに邂逅《かいこう》して、古人|已《すで》に早く我が情を賦せりの感を深くした。)
 とにかく私はそういう人間だから、もう半世紀近くも昔になる私の少年時代に食べたおはぎの味を、未だに忘れることが出来ずに居り、その記憶は、叔母の姿をいつまでも懐しいものに思わせてくれ、今も私を駆って
前へ 次へ
全26ページ中11ページ目


小説の先頭へ
文字数選び直し
河上 肇 の一覧に戻る
作家の選択に戻る
◆作家・作品検索◆
トップページ 登録 ご利用方法 ログイン
携帯用掲示板レンタル
携帯キャッシング