人に近づくと読むことを欲しない。

                ○

 孟浩然の詩で唐詩選に載せられて居るものは七首あるが、その何れにも現れて居ない特徴が、全集を見ると眼に映じて来る。それは同じ文字が一つ詩の中に重ね用ひられて居ると云ふことである。例へば「友人の京に之くを送る」と題する五絶に、次のやうなのがある。

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君登青雲去    君は青雲に登りて去り、
余望青山歸    余《われ》は青山を望んで帰る。
雲山從此別    雲山これより別かる、
涙濕薜蘿衣    涙は湿す薜蘿《ヘイラ》の衣《ころも》。
[#ここで字下げ終わり]

 僅か二十字のうち、青雲青山雲山と同じ字が三つも重なつてゐるが、その重なり方がおもしろい。吾々は少しも不自然を感ぜず、却て特殊の味ひを覚える。
 以下重字の例を列記して見る。
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朝游訪名山[#「山」に白丸傍点]、山[#「山」に白丸傍点]遠在空翠。(尋香山湛上人)
悠悠清江水[#「水」に白丸傍点]、水[#「水」に白丸傍点]落沙嶼出。(登江中孤嶼)
鴛鴦※[#「さんずい+鷄」、第4水準2−94−45」]※[#「(來
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