くの場合、第一句は之を読み切りにしない方がよい。例へば、前に掲げた孟浩然の詩、

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移舟泊烟渚    舟を移して烟渚に泊せば[#「泊せば」に白丸傍点]、
日暮客愁新    日暮れて客愁新たなり。
野曠天低樹    野曠うして天《そら》樹に低《た》れ、
江清月近人    江清うして月人に近し。
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にしても、既に書いておいたやうに、小杉放庵の『唐詩及唐詩人』には、起句を「舟を移して烟渚に泊す[#「泊す」に白丸傍点]」と読み切つてゐるが、私は「烟渚に泊せば[#「せば」に白丸傍点]」と次の句へ読み続けた方がいいと思ふのである。

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舟を移して烟渚に泊す
日暮れて客愁新たなり
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と云ふのと、

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舟を移して烟渚に泊せば
日暮れて客愁新たなり
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と云ふのとでは、ちよつとしたことだけれども、私は感じが非常に違ふと思ふ。
 やはり前に掲げた同じく孟浩然の詩、

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君登青雲去    君は青雲に登りて去り[#「去り」に白丸傍点]、
余望青山歸
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