「看花」に白丸傍点]還看花[#「看花」に白丸傍点]、春風江上路、不覚到君家」の如く、王安石の「水[#「水」に白丸傍点]南水[#「水」に白丸傍点]北重重[#「重重」に白丸傍点]柳、山[#「山」に白丸傍点]後山[#「山」に白丸傍点]前処処[#「処処」に白丸傍点]梅、未即此身随物化、年年長趁此時来」の如く、また陸放翁の「不[#「不」に白丸傍点]飢不[#「不」に白丸傍点]寒万事足、有[#「有」に白丸傍点]山有[#「有」に白丸傍点]水一生閑、朱門不管渠痴絶、自愛茅茨三両間」の如く、一句中に同字を用ひるは差支なきも、一首中に句を別にして同字を重ね用ひるは、原則として厭むべきものとされてゐる。しかし同字の重畳によつて却て用語の妙を発揮せる例も少くない。
前に掲げた孟浩然の送友人之京と題せる五絶の如きは、その適例の一つであるが、文同(晩唐)の望雲楼と題する次の五絶の如きも、各句に楼字を重ね用ひることによつて、特殊の味を出して居ると思はれる。
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巴山樓[#「樓」に白丸傍点]之東 巴山は楼の東、
秦嶺樓[#「樓」に白丸傍点]之北 秦嶺は楼の北。
樓[#「樓」に白丸傍点]上捲簾時 楼上簾を捲くの時、
滿樓[#「樓」に白丸傍点]雲一色 楼に満つ雲一色。
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家鉉翁(晩唐)の寄江南故人と題する次の詩も、やはり同字の重畳に面白味がある。
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曾向錢唐[#「錢唐」に白丸傍点]住 曾て銭唐に向つて住し、
聞鵲憶蜀[#「蜀」に白丸傍点]郷 鵲を聞いて蜀郷を憶ひき。
不知今夕夢 知らず今夕の夢、
到[#「到」に白三角傍点]蜀[#「蜀」に白丸傍点]到[#「到」に白三角傍点]錢唐[#「錢唐」に白丸傍点] 蜀に到るか銭唐に到るか。
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銭唐は今の浙江省の銭塘で、即ち江南であり、蜀は今の四川省に当る北地。向つては於いてと云ふに同じ。作者は今、郷里の蜀地にも居らず、また曾て住みたる銭塘にも居らず、却て友人の銭塘に在るを憶へるのである。
張文姫(鮑参軍妻)渓口雲詩にいふ、溶溶渓[#「渓」に白丸傍点]口雲、纔向渓中[#「渓中」に白丸傍点]吐、不復帰渓中[#「渓中」に白丸傍点]、還作渓中[#「渓中」に白丸傍点]雨(溶々たる渓口の雲、纔に渓中に向つて吐く。復び渓中に帰らず
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