に晨を報じ[#「報じ」に白丸傍点]、
曉月漸無色 暁月漸く色無し。
行人馬上去 行人馬上に去り[#「去り」に白丸傍点]、
殘燈照空驛 残灯空駅を照せり。
曉霽 司馬光
夢覺繁聲絶 夢覚めて繁声絶え[#「絶え」に白丸傍点]、
林光透隙來 林光隙を透して来たる。
開門驚烏鳥 門を開きて烏鳥を驚かせば[#「驚かせば」に白丸傍点]、
餘滴墮蒼苔 余滴蒼苔に堕ちぬ。
[#ここで字下げ終わり]
○
漢詩を日本読みにするについての注意の続き。
漢詩を日本読みにする場合、動詞の過去形は、時により絶対に必要である。例へば、唐詩選にある趙※[#「古+(暇−日)」、241−12]の江楼書感を、岩波文庫本では、
[#ここから3字下げ]
獨上江樓思渺然 独り江楼に上りて思ひ渺然、
月光如水水連天 月光水の如く水天に連る。
同來翫月人何處 同く来りて月を翫ぶ[#「翫ぶ」に白丸傍点]の人何れの処ぞ、
風景依稀似去年 風景依稀として去年に似たり。
[#ここで字下げ終わり]
と読ませてあるが、「翫ぶ[#「ぶ」に白丸傍点]」は「翫びし[#「びし」に白丸傍点]」と読ませなければ、結句が活きない。
場合によつては、推量の助動詞を使ふことがまた必要である。例へば、同じく唐詩選にある李益の※[#「さんずい+卞」、第3水準1−86−52]河曲を、岩波文庫本では、
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※[#「さんずい+卞」、第3水準1−86−52]水東流無限春 ※[#「さんずい+卞」、第3水準1−86−52]水東流す限りなきの春、
隋家宮闕已成塵 隋家の宮闕已に塵と成る。
行人莫上長堤望 行人長堤に上りて望むこと莫れ、
風起楊花愁殺人 風起れ[#「れ」に白丸傍点]ば楊花人を愁殺す[#「す」に白丸傍点]。
[#ここで字下げ終わり]
と読ませてあるけれども、結句は「風起ら[#「ら」に白丸傍点]ば楊花人を愁殺せん[#「せん」に白丸傍点]」と読ませたいものである。
かうした例は、拾ひ出して来れば際限なくあるが、ここには今一つ、陸放翁の詞(これは詩でなく謂はゆる詩余である)を一首だけ掲げておく。この一首には丁度、推量の助動詞と過去動詞とを用ふべき句が、前後にふくまれてゐるのである。
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