つた。而して子供を連れ出して来た。
 彼は妻の前に子供をすゑて、
「さ、マヽに悪う御座いましたとあやまりなさい」
 と云ひ渡した。日頃ならばかうなると頑固《ぐわんこ》を云ひ張る質《たち》であるのに、この夜は余程|懲《こ》りたと見えて、子供は泣きじやくりをしながら、なよ[#「なよ」に傍点]/\と頭を下げた。それを見ると突然彼の胸はぎゆつ[#「ぎゆつ」に傍点]と引きしめられるやうになつた。
 冷え切つた小さい寝床の中に子供を臥《ね》かして、彼は小声で半ば嚇《おど》かすやうに半ば教へるやうに、是れからは決して夜中などにやんちや[#「やんちや」に傍点]を云ふものでないと云ひ聞かせた。子供は今までの恐怖になほおびえてゐるやうに、彼の云ふ事などは耳にも入れないで、上の空で彼の胸にすり寄つた。
 後ろを振返つて見ると、妻は横になつて居た。人に泣き顔を見せるのを嫌ひ、又よし泣くのを見せても声などを決して立てた事のない妻が、床の中でどうしてゐるかは彼には略※[#二の字点、1−2−22]《ほゞ》想像が出来た。子供は泣き疲れに疲れ切つて、時々夢でおびえながら程もなく眠りに落ちて了つた。
 彼は石ころのやうに
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