僕の帽子のお話
有島武郎

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【テキスト中に現れる記号について】

《》:ルビ
(例)仰有《おっしゃ》いました。

|:ルビの付く文字列の始まりを特定する記号
(例)二円八十|銭《せん》
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「僕の帽子はおとうさんが東京から買って来て下さったのです。ねだんは二円八十|銭《せん》で、かっこうもいいし、らしゃも上等です。おとうさんが大切にしなければいけないと仰有《おっしゃ》いました。僕もその帽子が好きだから大切にしています。夜は寝る時にも手に持って寝ます」
 綴《つづ》り方の時にこういう作文を出したら、先生が皆んなにそれを読んで聞かせて、「寝る時にも手に持って寝ます。寝る時にも手に持って寝ます」と二度そのところを繰返《くりかえ》してわはははとお笑いになりました。皆んなも、先生が大きな口を開《あ》いてお笑いになるのを見ると、一緒になって笑いました。僕もおかしくなって笑いました。そうしたら皆んながなおのこと笑いました。
 その大切な帽子がなくなってしまったのですから僕は本当に困りました。いつもの通り「御機嫌《ごきげん》よう」をして、本の包みを枕《まくら》もとにおいて、帽子のぴかぴか光る
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