庇《ひさし》をつまんで寝たことだけはちゃんと覚えているのですが、それがどこへか見えなくなったのです。
眼《め》をさましたら本の包《つつみ》はちゃんと枕もとにありましたけれども、帽子はありませんでした。僕は驚いて、半分寝床から起き上って、あっちこっちを見廻《みま》わしました。おとうさんもおかあさんも、何《なん》にも知らないように、僕のそばでよく寝ていらっしゃいます。僕はおかあさんを起《おこ》そうかとちょっと思いましたが、おかあさんが「お前さんお寝ぼけね、ここにちゃあんとあるじゃありませんか」といいながら、わけなく見付けだしでもなさると、少し耻《はずか》しいと思って、起すのをやめて、かいまきの袖《そで》をまくり上げたり、枕の近所を探して見たりしたけれども、やっぱりありません。よく探して見たら直《す》ぐ出て来るだろうと初めの中《うち》は思って、それほど心配はしなかったけれども、いくらそこいらを探しても、どうしても出て来ようとはしないので、だんだん心配になって来て、しまいには喉《のど》が干《ひ》からびるほど心配になってしまいました。寝床の裾《すそ》の方もまくって見ました。もしや手に持ったまま
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