家は創造するといはれてゐる。全くの創造は芸術家にも許されてはゐない。芸術家は自然の或る断面を誇大するに過ぎない。偽りの芸術家は意識的にそれをする。本当の芸術家は知らずしてそれを為し遂げる。而してそれを彼れに個有な力と様式とをもつて為し遂げる。彼れは他の人が見なかつたやうに自然を見る。而してその見方を以て他の人々を義眼する。かくて自然は嘗てありしところの相を変へる。創造とはそれをいふのだ。自然が創造されたのではない。謂はゞ自然の幻覚が創造されたのだ。
然しながらこの幻覚創造が如何に人間生活の内容を豊富にすることよ。何故ならば人間は幻覚によつてのみ本当に生きることが出来るのだから。
*
自然をそのまゝに客観するものは科学者である。少くともさうしようと企てるものが科学者である。彼れは自然の或る面に対して敏感でなければならない。而して同時にそれを誇大する習癖から救はれてゐなければならない。
彼れは常に芸術の誇大から自然を解放する。その所謂美しくない姿に於ての自然を露出せしめる。人間性の約束として彼れも亦何等かの方面に於て自然を誇大してゐるであらう。然しながら彼れのか
前へ
次へ
全11ページ中8ページ目
小説の先頭へ
文字数選び直し
有島 武郎 の一覧に戻る
作家の選択に戻る
◆作家・作品検索◆
トップページ
登録
ご利用方法
ログイン
携帯用掲示板レンタル
携帯キャッシング