までやって来た。もうどうしても遁《のが》れる途《みち》がないと覚悟をきめたものらしい。しょんぼりと泣きも得せずに突っ立ったそのまわりには、あらん限りの子供たちがぞろぞろと跟《つ》いて来て、皮肉な眼つきでその子供を鞭《むちう》ちながら、その挙動の一つ一つを意地悪げに見やっていた。六つの子供にとって、これだけの過失は想像もできない大きなものであるに違いない。子供は手の甲を知らず知らず眼の所に持って行ったが、そうしてもあまりの心の顛倒《てんとう》に矢張り涙は出て来なかった。
 彼は心まで堅くなってじっとして立っていた。がもう黙ってはいられないような気分になってしまっていた。肩から手にかけて知らず知らず力がこもって、唾《つば》をのみこむとぐっと喉が鳴った。その時には近所合壁から大人《おとな》までが飛び出して来て、あきれた顔をして配達車とその憐《あわれ》な子供とを見比べていたけれども、誰一人として事件の善後を考えてやろうとするものはないらしく、かかわり合いになるのをめんどうくさがっているように見えた。そのていたらくを見せつけられると彼はますます焦立《いらだ》った。いきなり飛びこんで行って、そこに
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