ほう》する試みでもしようと思ったのか、小走りに車の手前まで駈けて来て、そこに黙《だま》ったまま立ち停った。そしてきょろきょろとほかの子供たちを見やってから、当惑し切ったように瓶の積み重なりを顧みた。取って返しはしたものの、どうしていいのかその子供には皆目見当がつかないのだ、と彼は思った。
 群がり集まって来た子供たちは遠巻きにその一人の子供を取り巻いた。すべての子供の顔には子供に特有な無遠慮な残酷な表情が現われた。そしてややしばらく互いに何か言い交していたが、その中の一人が、
「わーるいな、わるいな」
 とさも人の非を鳴らすのだという調子で叫びだした。それに続いて、
「わーるいな、わるいな。誰かさんはわーるいな。おいらのせいじゃなーいよ」
 という意地悪げな声がそこにいるすべての子供たちから一度に張り上げられた。しかもその糺問《きゅうもん》の声は調子づいてだんだん高められて、果ては何処《どこ》からともなくそわそわと物音のする夕暮れの町の空気が、この癇高《かんだか》な叫び声で埋められてしまうほどになった。
 しばらく躊躇《ちゅうちょ》していたその子供は、やがて引きずられるように配達車の所
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