らばり出て、ある限りが粉微塵《こなみじん》になりでもすれば……
 はたしてそれが来た。前扉はぱくんと大きく口を開いてしまった。同時に、三段の棚が、吐き出された舌のように、長々と地面にずり出した。そしてそれらの棚の上にうんざりと積んであった牛乳瓶は、思ったよりもけたたましい音を立てて、壊れたり砕けたりしながら山盛りになって地面に散らばった。
 その物音には彼もさすがにぎょっとしたくらいだった。子供はと見ると、もう車から七、八間のところを無二無三に駈《か》けていた。他人の耳にはこの恐ろしい物音が届かないうちに、自分の家に逃げ込んでしまおうと思い込んでいるようにその子供は走っていた。しかしそんなことのできるはずがない。彼が、突然地面の上に現われ出た瓶の山と乳の海とに眼を見張った瞬間に、道の向こう側の人垣を作ってわめき合っていた子供たちの群れは、一人残らず飛び上がらんばかりに驚いて、配達車の方を振り向いていた。逃げかけていた子供は、自分の後に聞こえたけたたましい物音に、すくみ上がったようになって立ち停った。もう逃げ隠れはできないと観念したのだろう。そしてもう一度なんとかして自分の失敗を彌縫《び
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