て、破れたり、はじけたり、転がったりした。子供は……それまでは自分の力にある自信を持って努力していたように見えていたが……こういうはめになるとかっとあわて始めて、突っ張っていた手にひときわ力をこめるために、体を前の方に持って行こうとした。しかしそれが失敗の因《もと》だった。そんなことをやったおかげで子供の姿勢はみじめにも崩《くず》れて、扉はたちまち半分がた開いてしまった。牛乳瓶はここを先途《せんど》とこぼれ出た。そして子供の胸から下をめった打ちに打っては地面に落ちた。子供の上前《うわまえ》にも地面にも白い液体が流れ拡《ひろ》がった。
 こうなると彼の心持ちはまた変わっていた。子供の無援《むえん》な立場を憐《あわれ》んでやる心もいつの間にか消え失せて、牛乳瓶ががらりがらりととめどなく滝のように流れ落ちるのをただおもしろいものに眺めやった。実際そこに惹起《じゃっき》された運動といい、音響といい、ある悪魔的な痛快さを持っていた。破壊ということに対して人間の抱いている奇怪な興味。小さいながらその光景は、そうした興味をそそり立てるだけの力を持っていた。もっと激しく、ありったけの瓶が一度に地面に散
前へ 次へ
全12ページ中6ページ目


小説の先頭へ
文字数選び直し
有島 武郎 の一覧に戻る
作家の選択に戻る
◆作家・作品検索◆
トップページ 登録 ご利用方法 ログイン
携帯用掲示板レンタル
携帯キャッシング