いる人間どもを手あたりしだいになぐりつけて、あっけにとられている大人子供を尻眼にかけながら、
「馬鹿野郎! 手前たちは木偶《でく》の棒だ。卑怯者《ひきょうもの》だ。この子供がたとえばふだんいたずらをするからといって、今もいたずらをしたとでも思っているのか。こんないたずらがこの子にできるかできないか、考えてもみろ。可哀そうに。はずみから出たあやまちなんだ。俺《おれ》はさっきから一伍一什《いちぶしじゅう》をここでちゃんと見ていたんだぞ。べらぼうめ! 配達屋を呼んで来い」
と存分に痰呵《たんか》を切ってやりたかった。彼はいじいじしながら、もう飛び出そうかもう飛び出そうかと二の腕をふるわせながら青くなって突っ立っていた。
「えい、退《ど》きねえ」
といって、内職に配達をやっている書生とも思わしくない、純粋の労働者肌の男が……配達夫が、二、三人の子供を突き転ばすようにして人ごみの中に割りこんで来た。
彼はこれから気のつまるようないまいましい騒ぎがもちあがるんだと知った。あの男はおそらく本当に怒るだろう。あの泣きもし得ないでおろおろしている子供が、皆んなから手柄顔に名指されるだろう。配達夫は
前へ
次へ
全12ページ中10ページ目
小説の先頭へ
文字数選び直し
有島 武郎 の一覧に戻る
作家の選択に戻る
◆作家・作品検索◆
トップページ
登録
ご利用方法
ログイン
携帯用掲示板レンタル
携帯キャッシング