こか深い所に流されたのだということを私たちはいい合わさないでも知ることが出来たのです。いい合わさないでも私たちは陸の方を眼がけて泳げるだけ泳がなければならないということがわかったのです。
三人は黙ったままで体を横にして泳ぎはじめました。けれども私たちにどれほどの力があったかを考えて見て下さい。Mは十四でした。私は十三でした。妹は十一でした。Mは毎年《まいねん》学校の水泳部に行っていたので、とにかくあたり前に泳ぐことを知っていましたが、私は横のし泳ぎを少しと、水の上に仰向《あおむ》けに浮くことを覚えたばかりですし、妹はようやく板を離れて二、三|間《げん》泳ぐことが出来るだけなのです。
御覧《ごらん》なさい私たちは見る見る沖の方へ沖の方へと流されているのです。私は頭を半分水の中につけて横のしでおよぎながら時々頭を上げて見ると、その度ごとに妹は沖の方へと私から離れてゆき、友達のMはまた岸の方へと私から離れて行って、暫《しば》らくの後《のち》には三人はようやく声がとどく位《ぐらい》お互《たがい》に離ればなれになってしまいました。そして波が来るたんびに私は妹を見失ったりMを見失ったりしました
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