ま、いやな顔をして胸のあたりを撫《な》でまわしています。私は何んだか言葉をかけるのさえためらわれて黙ったまま突立《つった》っていました。
「まああなたがこの子を助けて下さいましたんですね。お礼の申しようも御座《ござ》んせん」
すぐそばで気息《いき》せき切ってしみじみといわれるお婆様の声を私は聞きました。妹は頭からずぶ濡れになったままで泣きじゃくりをしながらお婆様にぴったり抱かれていました。
私たち三人は濡れたままで、衣物《きもの》やタオルを小脇《こわき》に抱《かか》えてお婆様と一緒に家の方に帰りました。若者はようやく立上って体を拭《ふ》いて行ってしまおうとするのをお婆様がたって頼んだので、黙ったまま私たちのあとから跟《つ》いて来ました。
家《うち》に着くともう妹のために床《とこ》がとってありました。妹は寝衣《ねまき》に着かえて臥《ね》かしつけられると、まるで夢中になってしまって、熱を出して木《こ》の葉のようにふるえ始めました。お婆様は気丈《きじょう》な方で甲斐々々《かいがい》しく世話をすますと、若者に向って心の底からお礼をいわれました。若者は挨拶《あいさつ》の言葉も得《え》いわな
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