いような人で、唯《ただ》黙ってうなずいてばかりいました。お婆様はようやくのことでその人の住《すま》っている所だけを聞き出すことが出来ました。若者は麦湯《むぎゆ》を飲みながら、妹の方を心配そうに見てお辞儀を二、三度して帰って行ってしまいました。
「Mさんが駈けこんで来なすって、お前たちのことをいいなすった時には、私は眼がくらむようだったよ。おとうさんやお母さんから頼まれていて、お前たちが死にでもしたら、私は生きてはいられないから一緒に死ぬつもりであの砂山をお前、Mさんより早く駈け上りました。でもあの人が通り合せたお蔭《かげ》で助かりはしたもののこわいことだったねえ、もうもう気をつけておくれでないとほんに困りますよ」
 お婆様はやがてきっとなって私を前にすえてこう仰有《おっしゃ》いました。日頃《ひごろ》はやさしいお婆様でしたが、その時の言葉には私は身も心もすくんでしまいました。少しの間《あいだ》でも自分一人が助かりたいと思った私は、心の中をそこら中《じゅう》から針でつかれるようでした。私は泣くにも泣かれないでかたくなったままこちんとお婆様の前に下を向いて坐りつづけていました。しんしんと暑い
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