んでした。昼間でも草の中にはもう虫の音《ね》がしていましたが、それでも砂は熱くって、裸足《はだし》だと時々草の上に駈《か》け上《あが》らなければいられないほどでした。Mはタオルを頭からかぶってどんどん飛んで行きました。私は麦稈帽子《むぎわらぼうし》を被《かぶ》った妹の手を引いてあとから駈けました。少しでも早く海の中につかりたいので三人は気息《いき》を切って急いだのです。
紆波《うねり》といいますね、その波がうっていました。ちゃぷりちゃぷりと小さな波が波打際《なみうちぎわ》でくだけるのではなく、少し沖の方に細長い小山のような波が出来て、それが陸の方を向いて段々|押寄《おしよ》せて来ると、やがてその小山のてっぺんが尖《とが》って来て、ざぶりと大きな音をたてて一度に崩れかかるのです。そうすると暫《しば》らく間《ま》をおいてまたあとの波が小山のように打寄《うちよ》せて来ます。そして崩れた波はひどい勢いで砂の上に這《は》い上《あが》って、そこら中《じゅう》を白い泡で敷きつめたようにしてしまうのです。三人はそうした波の様子を見ると少し気味悪くも思いました。けれども折角《せっかく》そこまで来ていな
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