溺れかけた兄妹
有島武郎
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【テキスト中に現れる記号について】
《》:ルビ
(例)土用波《どようなみ》という
|:ルビの付く文字列の始まりを特定する記号
(例)段々|押寄《おしよ》せて来ると
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土用波《どようなみ》という高い波が風もないのに海岸に打寄《うちよ》せる頃《ころ》になると、海水浴に来《き》ている都《みやこ》の人たちも段々別荘をしめて帰ってゆくようになります。今までは海岸の砂の上にも水の中にも、朝から晩まで、沢山の人が集って来て、砂山からでも見ていると、あんなに大勢な人間が一たい何所《どこ》から出て来たのだろうと不思議に思えるほどですが、九月にはいってから三日目になるその日には、見わたすかぎり砂浜の何所にも人っ子一人いませんでした。
私《わたし》の友達のMと私と妹とはお名残だといって海水浴にゆくことにしました。お婆様《ばあさま》が波が荒くなって来るから行《ゆ》かない方がよくはないかと仰有《おっしゃ》ったのですけれども、こんなにお天気はいいし、風はなしするから大丈夫だといって仰有ることを聞かずに出かけました。
丁度昼少し過ぎで、上天気で、空には雲一つありませ
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