がら、そのまま引返《ひきかえ》すのはどうしてもいやでした。で、妹に帽子を脱《ぬ》がせて、それを砂の上に仰向《あおむ》けにおいて、衣物《きもの》やタオルをその中に丸めこむと私たち三人は手をつなぎ合せて水の中にはいってゆきました。
「ひきがしどいね」
とMがいいました。本当にその通りでした。ひきとは水が沖の方に退《ひ》いて行く時の力のことです。それがその日は大変強いように私たちは思ったのです。踝《くるぶし》くらいまでより水の来ない所に立っていても、その水が退いてゆく時にはまるで急な河の流れのようで、足の下の砂がどんどん掘れるものですから、うっかりしていると倒れそうになる位でした。その水の沖の方に動くのを見ていると眼《め》がふらふらしました。けれどもそれが私たちには面白くってならなかったのです。足の裏をくすむるように砂が掘れて足がどんどん深く埋《うず》まってゆくのがこの上なく面白かったのです。三人は手をつないだまま少しずつ深い方にはいってゆきました。沖の方を向いて立っていると、膝《ひざ》の所で足がくの字に曲りそうになります。陸の方を向いていると向脛《むこうずね》にあたる水が痛い位でした。両
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