変化して、外界に対しての顧慮から伸び縮みする必要は絶対になくなるべき筈《はず》だ。何事もそれからのことだ。
お前はまた私に帰って来る前に、お前が全く外界の標準から眼を退けて、私を唯一無二の力と頼む前に、人類に対するお前の立場の調和について迷ったかも知れない。驀地《まっしぐら》にお前が私と一緒になって進んで行くことが、人類に対して迷惑となり、その為めに人間の進歩を妨げ、従って生活の秩序を破り、節度を壊すような結果を多少なりとも惹《ひ》き起しはしまいか。そうお前は迷ったろう。
それは外界にのみ執着しなれたお前に取っては考えられそうなことだ。然しお前がこの問題に対して真剣になればなる程、そうした外部的な顧慮は、お前には考えようとしても考えられなくなって来るだろう。水に溺《おぼ》れて死のうとする人が、世界の何処かの隅《すみ》で、小さな幸福を得た人のあるのを想像して、それに祝福を送るというようなことがとてもあり得ないと同様に、お前がまことに緊張して私に来る時には、それから結果される影響などは考えてはいられない筈だ。自分の罪に苦しんで、荊棘《いばら》の中に身をころがして、悶《もだ》えなやんだ聖
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