者フランシスが、その悔悟の結果が、人類にどういう影響を及ぼすだろうかと考えていたかなどと想像するようなものは、人の心の正しい尊さを、露程も味ったことのない憐《あわ》れな人といわなければならないだろう。
お前にいって聞かす。そういう問いを発し、そういう疑いになやむ間は、お前は本当に私の所に帰って来る資格は持ってはいないのだ。お前はまだ徹底的に体裁ばかりで動いている人間だ。それを捨てろ。それを捨てなければならぬ程に今までの誤謬《ごびゅう》に眼を開け。私は前後を顧慮しないではいられない程、緩慢な歩き方はしていない。自分の生命が脅かされているくせに、外界に対してなお閑葛藤《かんかっとう》を繋《つな》いでいるようなお前に対しては、恐らく私は無慈悲な傍観者であるに過ぎまい。私は冷然としてお前の惨死を見守ってこそいるだろうが、一臂《いっぴ》の力にも恐らくなってはやらないだろう。
又お前は、前にもいったことだが、単に専門家になったことだけでは満足が出来なくなる。一体人は自分の到る処《ところ》に自分の主《あるじ》でなければならぬ。然《しか》るに専門家となるということは、自分を人間生活の或る一部門に売
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