して、そこにお前の満足を見出す外《ほか》にない。これだけの用意が出来上ったら、もう何の躊躇もなく驀進《ばくしん》すべき準備が整ったのだ。私の誇りかなる時は誇りかとなり、私の謙遜《けんそん》な時は謙遜となり、私の愛する時愛し、私の憎む時憎み、私の欲するところを欲し、私の厭《いと》うところを厭えばいいのである。
 かくしてお前は、始めてお前自身に立ち帰ることが出来るだろう。この世に生れ出て、産衣《うぶぎ》を着せられると同時に、今日までにわたって加えられた外界の圧迫から、お前は今始めて自由になることが出来る。これまでお前が、自分を或る外界の型に篏《は》める必要から、強いて不用のものと見て、切り捨ててしまったお前の部分は、今は本当の価値を回復して、お前に取ってはやはり必要欠くべからざる要素となった。お前の凡ての枝は、等しく日光に向って、喜んで若芽を吹くべき運命に逢《あ》い得たのだ。その時お前は永遠の否定を後ろにし、無関心の谷間を通り越して、初めて永遠の肯定の門口に立つことが出来るようになった。
 お前の実生活にもその影響がない訳ではない。これからのお前は必然によって動いて、無理算段をして動くこ
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