徒と呼んで唾棄《だき》するかも知れない。然し私にはその人々の何処《どこ》かに私を牽《ひ》き付ける或るものが感ぜられる。私には生来持ち合わしていない或る上品さ、或る聡明さが窺われるからだ。
何という多趣多様な生活の相だろう。それはそのままで尊いではないか。そのままで完全な自然な姿を見せているではないか。若し自然にあの絢爛《けんらん》な多種多様があり、独《ひと》り人間界にそれがなかったならば、宇宙の美と真とはその時に崩れるといってもいいだろう。主義者といわれる人の心を私はこの点に於てさびしく物足らなく思う。彼は自分が授かっただけの天分を提《ひっさ》げて人間全体をただ一つの色に塗りつぶそうとする人ではないか。その意気の尊さはいうまでもない。然しその尊さの蔭には尊さそのものをも冰《こお》らせるような淋しさが潜んでいる。
ただ私は私自身を私に恰好《かっこう》なように守って行きたい。それだけは私に許される事だと思うのだ。そしてその立場からいうと私はかの聡明にして上品な人々と同情の人であることが出来ない。私にはまださもしい未練が残っていて、凡てを仮象の戯れだと見て心を安んじていることが出来ない。
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