好んで愛を語る人は、頭の軟《やわら》かなセンティメンタリストと取られるおそれがありはしまいか。それは然し愛の本質とは極《きわ》めてかけ離れた考え方から起った危険な誤解だといわなければならぬ。愛は優しい心に宿り易くはある。然し愛そのものは優しいものではない。それは烈しい容赦のない力だ。それが人間の生活に赤裸のまま現われては、却って生活の調子を崩《くず》してしまいはしないかと思われるほど容赦のない烈しい力だ。思え、ただ仮初《かりそ》めの恋にも愛人の頬《ほお》はこけるではないか。ただいささかの子の病にも、その母の眼はくぼむではないか。
 個性はその生長と自由とのために、愛によって外界から奪い得るものの凡《すべ》てを奪い取ろうとする。愛は手近い所からその事業を始めて、右往左往に戦利品を運び帰る。個性が強烈であればある程、愛の活動もまた目ざましい。若《も》し私が愛するものを凡て奪い取り、愛せられるものが私を凡て奪い取るに至れば、その時に二人は一人だ。そこにはもう奪うべき何物もなく、奪わるべき何者もない。
 だからその場合彼が死ぬことは私が死ぬことだ。殉死とか情死とかはかくの如くして極めて自然であ
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