の中には他の為めに自滅を敢《あ》えてする例がいくらでもあるがそれをどう見ようとするのか。人間までに発達しない動物の中にも相互扶助の現象は見られるではないか。お前の愛己主義はそれをどう解釈する積りなのか。その場合にもお前は絶対愛他の現象のあることを否定しようとするのか。自己を滅してお前は何ものを自己に獲得しようとするのだ。と或る人は私に問い詰めるかも知れない。科学的な立場から愛を説こうとする愛己主義者は、自己保存の一変態と見るべき種族保存の本能なるものによってこの難題に当ろうとしている。然《しか》しそれは愛他主義者を存分に満足させないように、又私をも満足させる解釈ではない。私はもっと違った視角からこの現象を見なければならぬ。
愛がその飽くことなき掠奪《りゃくだつ》の手を拡げる烈《はげ》しさは、習慣的に、なまやさしいものとのみ愛を考え馴《な》れている人の想像し得るところではない。本能という言葉が誤解をまねき易《やす》い属性によって煩《わずら》わされているように、愛という言葉にも多くの歪《ゆが》んだ意味が与えられている。通常愛といえば、すぐれて優しい女性的な感情として見られていはしないか。
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