間そのものの向上がどれ程彼女――人間の不断の無視にかかわらず――によって運ばれたかを知っているから。
けれども私は暗示に私を託するに当って私自身を恥じねばならぬ。私を最もよく知るものは私自身であるとは思うけれども、私の知りかたは余りに乱雑で不秩序だ。そして私は言葉の正当な使い道すらも十分には心得ていない。その言葉の後ろに安んじて巣喰うべき暗示の座が成り立つだろうかとそれを私は恐れる。
然し私は行こう。私に取って已み難き要求なる個性の表現の為めに、あらゆる有縁《うえん》の個性と私のそれとを結び付けようとする厳《きび》しい欲求の為めに、私は敢《あ》えて私から出発して歩み出して行こう。
私が餓えているように、或る人々は餓えている。それらの人々に私は私を与えよう。そしてそれらの人々から私も受取ろう。その為めには仮りに自分の引込思案を捨ててかかろう。許されるかぎりに於て大胆になろう。
私が知り得る可能性を存分に申し出して見よう。唯《ただ》この貧しい言葉の中から暗示が姿を隠してしまわない事を私は祈る。
三
神を知ったと思っていた私は、神を知ったと思っていたことを知った
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