はかくの如くして始めて成就する。そこには犠牲もない。又義務もない。唯感謝すべき特権と、ほほ笑ましい飽満とがあるばかりだ。
一七
目を挙げて見るもの、それは凡《すべ》てが神秘である。私の心が平生の立場からふと視角をかえている時、私の目前に開かれるものはただ驚異すべき神秘があるばかりだ。然《しか》しながら現実の世界に執着を置き切った私には、かかる神秘は神秘でありながらあたり前の事実だ。私は小児のように常に驚異の眼を見張っていることは出来なくなった。その現実的な、散文的な私にも、愛の働きのみは近づきがたき神秘な現われとして感ぜられる。
愛は私の個性を哺《はぐ》くむために外界から奪い取って来る。けれどもその為めに外界は寸毫《すんごう》も失われることがない。例えば私は愛によってカナリヤを私の衷《うち》に奪い取る。けれどもカナリヤは奪わるることによって幸福にはなるとも不幸福にはならない。かの小鳥は少くとも物質的に美しい籠《かご》(それは醜い籠にあるよりも確かにいいことだろう)と新鮮な食餌とを以《もっ》て富ませられる。物質の法則を超越したこの神秘は私を存分に驚かせ感傷的にさえ
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