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【テキスト中に現れる記号について】
《》:ルビ
(例)太初《はじめ》に
|:ルビの付く文字列の始まりを特定する記号
(例)尊重|愛撫《あいぶ》しないで
[#]:入力者注 主に外字の説明や、傍点の位置の指定
(数字は、JIS X 0213の面区点番号、または底本のページと行数)
(例)屡※[#二の字点、1−2−22]《しばしば》
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[#以下の2つの英文はすべてイタリック文字、横書き]
Sometimes with one I love, I fill myself with rage, for fear I effuse unreturn’d love;
But now I think there is no unreturn’d love―the pay is certain, one way or another;
(I loved a certain person ardently, and my love was not return’d;
Yet out of that, I have written these songs.)
[#右寄せ]― Walt Whitman ―
I exist as I am―that is enough;
If no other in the world be aware, I sit content,
And if each and all be aware, I sit content.
One world is aware, and by far the largest to me, and that is myself;
And whether I come to my own to−day, or in ten thousand or ten million years,
I can cheerfully take it now, or with equal cheerfulness I can wait.
[#右寄せ]― Walt Whitman ―
[#改ページ]
一
太初《はじめ》に道《ことば》があったか行《おこない》があったか、私はそれを知らない。然《しか》し誰がそれを知っていよう、私はそれを知りたいと希《こいねが》う。そして誰がそれを知りたいと希わぬだろう。けれども私はそれを考えたいとは思わない。知る事と考える事との間には埋め得ない大きな溝《みぞ》がある。人はよくこの溝を無視して、考えることによって知ることに達しようとはしないだろうか。私はその幻覚にはもう迷うまいと思う。知ることは出来ない。が、知ろうとは欲する。人は生れると直ちにこの「不可能」と「欲求」との間にさいなまれる。不可能であるという理由で私は欲求を抛《なげう》つことが出来ない。それは私として何という我儘《わがまま》であろう。そして自分ながら何という可憐《かれん》さであろう。
太初の事は私の欲求をもってそれに私を結び付けることによって満足しよう。私にはとても目あてがないが、知る日の来《きた》らんことを欲求して満足しよう。
私がこの奇異な世界に生れ出たことについては、そしてこの世界の中にあって今日まで生命を続けて来たことについては、私は明《あきら》かに知っている。この認識を誇るべきにせよ、恥ずべきにせよ、私はごまかしておくことが出来ない。私は私の生命を考えてばかりはいない。確かに知っている。哲学者が知っているように知っているのではないかも知れない。又深い生活の冒険者が知っているように知っているのではないかも知れない。然し私は知っている。この私の所有を他のいかなるものもくらますことは出来ない。又他のいかなる威力も私からそれを奪い取ることは出来ない。これこそは私の存在が所有する唯《ただ》一つの所有だ。
恐るべき永劫《えいごう》が私の周囲にはある。永劫は恐ろしい。或る時には氷のように冷やかな、凝然としてよどみわたった或るものとして私にせまる。又或る時は眼もくらむばかりかがやかしい、瞬間も動揺流転をやめぬ或るものとして私にせまる。私はそのものの隅《すみ》か、中央かに落された点に過ぎない。広さと幅と高さとを点は持たぬと幾何学は私に教える。私は永劫に対して私自身を点に等しいと思う。永劫の前に立つ私は何ものでもないだろう。それでも点が存在する如く私もまた永劫の中に存在する。私は点となって生れ出た。そして瞬《またた》く中《うち》に跡形もなく永劫の中に溶け込んでしまって、私はいなくなるのだ。それも私は知っている。そして私はいなくなるのを恐ろしく思うよりも、点となってここに私が私として生れ出たことを恐ろしく思う。
然し私は生れ出た。私はそれを知る。私自身がこの事実を知る主体で
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