ると、引き綱をゆるめて腰を延ばしながら、戯れた調子で大きな声をかける。
 「はれ兄《あん》さんもう浜さいくだね」
 「うんにゃ」
 「浜でねえ? たらまた山かい。魚を商売にする人《ふと》が暇さえあれば山さ突っぱしるだから怪体《けたい》だあてばさ。いい人でもいるだんべさ。は、は、は、‥‥。うんすら妬《や》いてこすに、一押し手を貸すもんだよ」
 「口はばったい事べ言うと鰊様《にしんさま》が群来《くけ》てはくんねえぞ。おかしな婆様《ばさま》よなあお前も」
 「婆様だ!?[#「!?」は横一列、第3水準1−8−78、79−13] 人聞《ふとぎ》きの悪い事べ言わねえもんだ。人様《ふとさま》が笑うでねえか」
 実際この内儀さんの噪《はしゃ》いだ雑言《ぞうごん》には往来の人たちがおもしろがって笑っている。君は当惑して、橇《そり》の後ろに回って三四間ぐんぐん押してやらなければならなかった。
 「そだ。そだ。兄《あん》さんいい力だ。浜まで押してくれたらおらお前に惚《ほ》れこすに」
 君はあきれて橇から離れて逃げるように行く手を急ぐ。おもしろがって二人の問答を聞いていた群集は思わず一度にどっ[#「どっ」に傍
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