品をめちゃくちゃにふろしきに包みこんで帰って行ってしまった。
君を木戸の所まで送り出してから、私はひとりで手広いりんご畑の中を歩きまわった。りんごの枝は熟した果実でたわわになっていた。ある木などは葉がすっかり[#「すっかり」に傍点]散り尽くして、赤々とした果実だけが真裸で累々と日にさらされていた。それは快く空の晴れ渡った小春びよりの一日だった。私の庭下駄《にわげた》に踏まれた落ち葉はかわいた音をたてて微塵《みじん》に押しひしゃがれた。豊満のさびしさというようなものが空気の中にしんみり[#「しんみり」に傍点]と漂っていた。ちょうどそのころは、私も生活のある一つの岐路に立って疑い迷っていた時だった。私は冬を目の前に控えた自然の前に幾度も知らず知らず棒立ちになって、君の事と自分の事とをまぜこぜ[#「まぜこぜ」に傍点]に考えた。
とにかく君は妙に力強い印象を私に残して、私から姿を消してしまったのだ。
その後君からは一度か二度問い合わせか何かの手紙が来たきりでぱったり[#「ぱったり」に傍点]消息が途絶えてしまった。岩内から来たという人などに邂《あ》うと、私はよくその港にこういう名前の青年は
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