の不幸に比べてみると、はるかに幸福だと君は思い入るのだ。彼らにはとにかくそういう生活をする事がそのまま生きる事なのだ。彼らはきれいさっぱり[#「さっぱり」に傍点]とあきらめをつけて、そういう生活の中に頭からはまり込んでいる。少しも疑ってはいない。それなのに君は絶えずいらいらして、目前の生活を疑い、それに安住する事ができないでいる。君は喜んで君の両親のために、君の家の苦しい生活のために、君のがんじょうな力強い肉体と精力とを提供している。君の父上のかりそめの風邪《かぜ》がなおって、しばらくぶりでいっしょに漁《りょう》に出て、夕方になって家に帰って来てから、一家がむつまじくちゃぶ[#「ちゃぶ」に傍点]台のまわりを囲んで、暗い五|燭《しょく》の電燈の下で箸《はし》を取り上げる時、父上が珍しく木彫のような固い顔に微笑をたたえて、
「今夜ははあおまんま[#「おまんま」に傍点]がうめえぞ」
と言って、飯茶わんをちょっと押しいただくように目八分に持ち上げるのを見る時なぞは、君はなんと言っても心から幸福を感ぜずにはいられない。君は目前の生活を決して悔やんでいるわけではないのだ。それにも係わらず、君は何
前へ
次へ
全114ページ中68ページ目
小説の先頭へ
文字数選び直し
有島 武郎 の一覧に戻る
作家の選択に戻る
◆作家・作品検索◆
トップページ
登録
ご利用方法
ログイン
携帯用掲示板レンタル
携帯キャッシング