かにつけてすぐ暗い心になってしまう。
「絵がかきたい」
君は寝ても起きても祈りのようにこの一つの望みを胸の奥深く大事にかきいだいているのだ。その望みをふり捨ててしまえる事なら世の中は簡単なのだ。
恋――互いに思い合った恋と言ってもこれほどの執着はあり得まいと君自身の心を憐《あわ》れみ悲しみながらつくづくと思う事がある。君の厚い胸の奥からは深いため息が漏れる。
雨の日などに土間にすわりこんで、兄上や妹さんなぞといっしょに、配縄《はいなわ》の繕いをしたりしていると、どうかした拍子にみんなが仕事に夢中になって、むつまじくかわしていた世間話すら途絶えさして、黙りこんで手先ばかりを忙《せわ》しく働かすような時がある。こういう瞬間に、君は我れにもなく手を休めて、茫然《ぼうぜん》と夢でも見るように、君の見ておいた山の景色を思い出している事がある。この山とあの山との距《へだた》りの感じは、界《さかい》の線をこういう曲線で力強くかきさえすれば、きっといいに違いない、そんな事を一心に思い込んでしまう。そして鋏《はさみ》を持った手の先で、ひとりでに、想像した曲線をひざの上に幾度もかいては消し、かいて
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