男らしい印象はそんな事まで私に思わせた。
「吹雪《ふぶ》いてひどかったろう」
「なんの。……温《ぬく》くって温くって汗がはあえらく出ました。けんど道がわかんねえで困ってると、しあわせよく水車番に会ったからすぐ知れました。あれは親身《しんみ》な人だっけ」
君の素直な心はすぐ人の心に触れると見える。あの水車番というのは実際このへんで珍しく心持ちのいい男だ。君は手ぬぐいを腰から抜いて湯げが立たんばかりに汗になった顔を幾度も押しぬぐった。
夜食の膳《ぜん》が運ばれた。「もう我慢がなんねえ」と言って、君は今まで堅くしていたひざをくずしてあぐらをかいた。「きちょうめん[#「きちょうめん」に傍点]にすわることなんぞははあねえもんだから。」二人は子供どうしのような楽しい心で膳《ぜん》に向かった。君の大食は愉快に私を驚かした。食後の茶を飯茶わんに三杯続けさまに飲む人を私は始めて見た。
夜食をすましてから、夜中まで二人の間に取りかわされた楽しい会話を私は今だに同じ楽しさをもって思い出す。戸外ではここを先途とあらしが荒れまくっていた。部屋《へや》の中ではストーブの向かい座にあぐらをかいて、癖のよう
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