んぱ》も手伝っていた。清逸が横になると、まめまめしく寝床をまわり歩いて、清逸の身体に添うて掛蒲団をぽんぽんと敲《たた》きつけてくれた。
 清逸は一昨日ここに帰ってきてから割合によく眠ることができた。海岸のように断続して水音のするのはひどく清逸の心をいらだたせたが、昼となく夜となく変化なしに聞こえる川瀬の音は、清逸の神経を按摩《あんま》するようだった。清逸はややともすると読みかけている書物をばたっと取り落して眼がさめたりした。それは生れてからないことだった。
 清逸は寝たまま含嗽《うがい》をすると、頸に巻きつけている真綿の襟巻を外《はず》して、夜着を深く被った。そして眼をつぶって、じっと川音に耳をすました。そこから何んの割引もいらぬ静かな安息がひそやかに近づいてくるようにも思いながら。
 その夜はしかし思うようには寝つかれなかった。彼の疲労が恢復《かいふく》したのかもしれなかった。あるいは神経がさらに鋭敏になり始めたのかもしれなかった。
 ふと眼がさめた。清逸はやはりいつの間にか浅い眠りを眠っていたのだった。盗汗《ねあせ》が軽く頸のあたりに出ているのを気持ち悪く手の平に感じた。
 川音が
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