こと。それらは呪《のろ》うべき心のゆるみの仕事ではなかったか。……園は自分自身が苦々しく省《かえり》みられた。
 やがて園は懺悔《ざんげ》するような心持で、努めて心を押し鎮《しず》めて、いつもどおりの静かな言葉に還りながら言いだした。
「話が途切《とぎ》れましたが、……僕は今学校の鐘の音に聞きとれていたもんですから……あれを聞くと僕は自分の家のことを思いだします。僕の家は浄土宗の寺です。だから小さい時から釣鐘の音やあの宗旨《しゅうし》で使う念仏の鉦《かね》の音は聞き慣《な》れていたんです。それは今でも耳についていて忘れません。そのためか鐘の音を聞くと僕は妙に考えさせられます。特別、学校のあの鐘には僕はある忘れられない経験を持っています。……そうですね、その話はやめておきましょう……とにかく僕はあの鐘を聞くと、父と兄とにむりに頼んで、こんな所に修業に出てきたのを思いだすんです。……」
 ここまで重いながら言葉を運んでくると、園はまた言わないでもいいことを言い続けているような気|尤《とが》めがした。園は今日は自分ながらどうかしていると思った。それでこれまでの無駄事《むだごと》の取りかえしを
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