もせず、高笑いもせずに、不断のとおりの心置きない表情に少しほほ笑みながら「いいえ」とだけいって、俯向《うつむ》き加減になった。
似而非物《にせもの》では断じてない。俺がいったんでは不似合だが、まず神々《こうごう》しい innocence《イノセンス》 だ。そういうことを許してもいい。十九……十九……まったくこれが十九という娘の仕業《しわざ》だろうか。渡瀬は少し憚《はばか》りながらも、まじまじとおぬいさんを眺めなおさずにはいられなくなった。骨節の延び延びとした、やや痩せぎすのしなやかさは十六七の娘という方が適当かもしれないが、争《あらそ》われないのは胸のあたりの暖かい肉づき、小鼻と生えぎわの滑かな脂肪《しぼう》だった。そしてその顔にはちょっと見よりも堅実《けんじつ》な思慮分別の色が明かに読まれた。それにしてもあまり自然に見える、子供のように神々しい無邪気。渡瀬は承知しながらもおぬいさんの齢を聞いてみたくなった。そして突然、
「失礼、あなたはいくつになりますね」
と尋ねてみた。さすがにおぬいさんは少し顔を赤らめたが、少しも隠し隔《へだ》てなく、渡瀬を信頼しきっているように、
「もう十九
前へ
次へ
全255ページ中187ページ目
小説の先頭へ
文字数選び直し
有島 武郎 の一覧に戻る
作家の選択に戻る
◆作家・作品検索◆
トップページ
登録
ご利用方法
ログイン
携帯用掲示板レンタル
携帯キャッシング