ったら出る色気はない。中央寺の坊主のいい草ではないが珍重珍重だ。おぬいさんがあのXの全量を誰かに滴らす段になってみろ……。渡瀬は思わず身ぶるいを感じた。
 まず作戦はあと廻わしにして、
「さてと、今日はどこから……」
 といいながらおぬいさんを見ると、書物に見入っているとばかり思っていたその人は、潤《うるお》いの細やかなその眼をぱっちりと開けて、探るように彼を見ているのだった。渡瀬はこの不意撃ちにちょっとどぎまぎしたが、すぐ立ちなおっていかなる機会をも掴《つか》もうとした。
「おやあなた僕の顔を見ていますね。ははは。僕の顔は出来損いですよ。それとも何かついていますか」
 そういって彼は剽軽《ひょうきん》らしくわざと顔をつきだしてみせた。この場合あたりまえの娘ならば、真紅な顔になってはにかんでしまうか、おたけさん級の娘なら、低能じみた高笑いをして、男に隙を見せるか、悧巧《りこう》を鼻にかけた娘なら、己惚《うぬぼ》れはよしてくださいといわんばかりにつん[#「つん」に傍点]とするに極っているのだった。渡瀬はそのどれをも取りひしぐ自信を持っていた。ところがおぬいさんは顔をあからめもせず、すまし
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