いうことなしに不愉快だった。人の噂からおぬいさんを弁護する、そんなしゃら臭い気持は渡瀬には頭からなかったけれども、やはり不愉快だった。
「焼けますかね」
 渡瀬は額越しに睨《にら》みかえした。
「それはお門違いでしょう」
 今度は奥さんの方が待ち設けていたようにぴったりと迫ってきた。
「ははあん、この女はやはり俺をすっかり虜《とりこ》にした気で得意なんだが、おぬいさんに少々プライドを傷けられているな……ひとつやってやるかな」
 渡瀬の胸の中でいたずら者がむずむずし始めた。奥さんが、ごくわずかの間であったけれども、苦界というものに身を沈めていて、今年の始に新井田氏の後妻として買い上げられたのだという事実は渡瀬の心をよけい放埓《ほうらつ》にした。うんと翻弄《ほんろう》してやろう……もしも冗談から駒が出たら――何かまうもんか、その時はその時のことだ……という万一の僥倖《ぎょうこう》をも、心の奥底では度外視してはいなかった。
「図星をさされたね」
 渡瀬はまたからからと笑って、酒に火照《ほて》ってきた顔から、五分刈が八分ほどに延びた頭にかけて、むちゃくちゃに撫《な》でまわした。
「ところが奥さ
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