をして笑った。笑う時にはなお鬼瓦に似てくるのを渡瀬はよく知っていた。
「この女は俺の顔の醜《みにく》いのを見て、どんなに気をゆるしてふざけても、遠慮からめったなことはしないくらいに俺を見くびっているな。醜い奴には男の心がないとでも思っているのか。ひとついきなり囓《かじ》りついてどのくらい俺が苦しめられているか思い知らしてやろうかしらん」
 渡瀬は真剣にそうおもうことがよくあった。そのくらい新井田の夫人は渡瀬に対して開けっ放しに振舞ったし、渡瀬は心の中で、ありえない誘惑に誘惑されていたのだ。この瞬間にも彼にはそうした衝動が来た。渡瀬は笑いからすぐ渋い顔になった。
「あら変ね、何がそんなにおかしいこと」
 といいながら、銚子《ちょうし》の裾の方を器用に支えて、渡瀬の方にさし延べた。渡瀬もそれを受けに手を延ばした。親指の股に仕事|疣《いぼ》のはいった巌丈な手が、不覚にも心持ち戦《ふる》えるのを感じた。
「でもおぬいさんは星野さんに夢中なんですってね」
 女郎《じょろう》上りめ……渡瀬は不思議に今の言葉で不愉快にされていた。「おぬいさん」と「夢中」という二つの言葉がいっしょに使われるのが何んと
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