ん》足角を現わしている。経済学史を講じているんだが『富国論』と『資本論』との比較なんかさせるとなかなか足角が現われる。馬脚が現われなければいいなと他人ながら心配がるくらいだ。図書館の本も札幌なんかのと比べものにならない。俺は今リカードの鉄則と取っ組合をしている。
「さてこれからまた取っ組むかな。
「大事にしろよ。
[#ここで字下げ終わり]
[#地から2字上げ]西山犀川
十月二十五日夜
* * *
「ガンベさん、あなた今日から三隅さんの所に教えにいらしったの」
渡瀬は教えに行った旨《むね》を答えて、ちょうど顔のところまで持ち上げて湯気の立つ黄金色を眺めていた、その猪口《ちょこ》に口をつけた。
「おぬいさんって可愛いい方ね」
そういうだろうと思って、渡瀬は酒をふくみながらその答えまで考えていたのだから、
「あなたほどじゃありませんね」
とさそくに受けて、今度は「憎らしい」と来るだろうと待っていると、新井田の奥さんは思う壷どおり、やさ睨《にら》みをしながら、
「憎らしい」
といった。そこで渡瀬はおかしくなってきて、片眼をかがやかして鬼瓦《おにがわら》のような顔
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