使のようだぞ。
「俺の部屋は四畳半で二階の西角だ。東隣りは大きな部屋だが畳を上げて物置になっていて、どういうものか鼠の奴がうん[#「うん」に傍点]といる。夜になると盛んに遊弋《ゆうよく》をやって賑《にぎ》やかでいい。けれどもだ、俺の所には喰うものはないからややもすれば足の先および耳鼻の類が危険だから、俺はかじられないだけの用心はしている。これより先、じつは俺は足の先をすでにかじられかかったんだ。けれどもだ、縁の先には大きな葡萄棚《ぶどうだな》があって、来年新芽を吹きだしたら、俺は王侯《おうこう》の気持になれそうだ。
「何しろ学校で袴《はかま》と草履《ぞうり》をはかないのは俺だけだ。足の裏が丈夫なら草履ははかなくともいいが袴ははかなければいかんといやがる。けれどもだ、袴をはけとは規則書に書いてないから勝手じゃないかと俺はいうた。足の裏はもとより丈夫だが、脛っぷし――というものがあるかないか、腕っぷしがある以上はありそうなものだ――だって丈夫だからな。俺はこれをサンキロティズムに対してサンバカミズム(Sansbakamism)と呼ぶだ。
「矢部さんの講義は何んといっても異色だ。嶄然《ざんぜ
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