く感心していたんだ)。円山|曰《いわ》く『どこで修業するつもりだ』、『W専門学校に行って矢部さんの講義を聞こうとおもう』、『札幌から紹介状でも貰ってきたか』、『来ん』、『じゃ俺が書くからこれから行ってみろ』……辞儀を一つする……貰いものの下駄をはく……歩く(ここは長し)……早稲田という所は田圃《たんぼ》の多いところだ。名詮自称《みょうせんじしょう》だ。……大隈の大きな屋敷を外から見た。W専門学校に着いた……他の奇なし。
「矢部さんは円山さんよりよほど愛想がいい。写真で片眼のべっかんこ[#「べっかんこ」に傍点]なのは知っていたが、ひどい若白髪だ。これはだいぶクリスチャンらしかった。俺も相当|鞠躬如《きっきゅうじょ》たらざるを得なかった。知合いの信者の家に空間があるかもしれないからいっしょに出かけてみようといって、学校から七八町くらいだ、表書きの家は、そこに連れていってくれた。そこのお内儀さんが矢部さんを見るとマルタが基督《キリスト》にでも出喰わしたように頭を下げるので、俺は困った。俺は白状すると矢部さんよりもマルタの方によけい頭が下げたいぐらいだったから。東京の女は俺の眼から見ると皆な天
前へ 次へ
全255ページ中113ページ目


小説の先頭へ
文字数選び直し
有島 武郎 の一覧に戻る
作家の選択に戻る
◆作家・作品検索◆
トップページ 登録 ご利用方法 ログイン
携帯用掲示板レンタル
携帯キャッシング