の面影《おもかげ》やが、見るように現われたり隠れたりしていた。そのために園は星野からの手紙を静かに読み終ることができないで、それを机の上に置いたなりで、細かく書連ねられた達者な字を見入りながら、だんだんと自分の家のことを思い耽《ふけ》りはじめた。
 あるかないかに薄い眉の上に、深い横皺を一本たたんで、黒白半ばするほどの髪毛のまだらに生え残った三分刈りの大きな頭を少し前こごみにして、じろりと横ざまに眼を走らしながら人の顔を見る父の顔……今年の夏休暇の終に見たその時の顔……その時、父と兄との間にはもう大きな亀裂《きれつ》が入っていて、いつも以上に不機嫌になっていた。兄は病気の加減もあったのかことさらに陰鬱《いんうつ》だった。若いくせに喘息《ぜんそく》が嵩《こう》じて肺気腫の気味になっていたが、ややともすると誰にも口をきかないで一日でも二日でも頑固に押し黙っているようなことがあった。園に対しては舐《な》めるような溺愛《できあい》を示すのに引きかえて、兄に対してはことごとに気持を悪るくしているらしい愛憎の烈しい母が、二人の中に挾まって、二人の間をかえってかき乱していた。いらいらしているのが指の先までも伝っているような様子で、驚くほど烈しく煙管《きせる》で吐月峰《とげっぽう》をたたきつけながら、自分のすぐ後ろにある座敷金庫から十円札を二枚取りだし、乞食にでもやるように、それを園の前に抛《ほう》りだして苦がりきっていた父の顔、それを取り上げるまでに園は自分でも解らぬような複雑した気持を味わねばならなかった。園が黙ったままお辞儀一つして、それに手を延ばすまでの一挙一動はもとより、どういう風に気持が動いているかを厳しく看守しながら、いささかでも父の権威を冒すような風があったら、そのままにはしておかないぞというように見えた父の顔……自分の生みの父ながら、あの眉の上の深い横皺は園にはこの上なくいやなものだった。どうかして鏡に向うようなことのあるたびごとに、園は自分の顔にそれが現われではしないかと神経質に注意した。年のせいか園にはなかった。しかし兄には明かにそれが出ていた。そういう父の顔……それが何よりも色濃く園の眼の前を離れなかった。死顔などはどうしても現われては来なかった。父の死んだということが第一不思議なほど信ぜられなかった。毎日葬式や命日というような儀式は見慣れてきてはいたけれど
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