して渡瀬さんは酒なんぞお飲みなさるのだろう。それにしても、あれほどの害をまざまざと受けながら、飲みつづけていられるのは、自分たちには分らない訳があることに違いない。私は渡瀬さんが何んだかお気の毒だ。けれども何も知らない私の力ではどうしようもないではないか……つまりこれだけしか分らなかった。
「さてと、今日はどこから……おや、あなた僕の顔を見ていますね。はははは。僕の顔は出来損いですよ。それとも何かついていますか」
 渡瀬さんはいきなりそのこね固めたような奇怪な顔を少し突きだすようにした。おぬいは大変な悪いことをしたとおもった。人の醜《みにく》い部分に臆面《おくめん》もなく注意を向けていたのを……そのつもりではなかったのだが……すまなく思った。といっても、いい訳もできなかった。ただ渡瀬さんの顔の醜いのを物好きに眺めていたのではない。それを知らせたいために、十分の好意をもって、かすかに微笑んだ。
 すると渡瀬さんは途轍《とてつ》もなく、
「失礼、あなたはいくつになりますね」
 と尋ねた。素直に十九だと答えると感心したように、
「ふーむ、珍らしいな、奇体だなあ」
 と嘆息するようにいいながら、今度は渡瀬さんがしげしげとおぬいの顔を見た。おぬいは軽い羞恥と、さらにかすかな恐れをも感ぜずにはいられなかった。けれどもその場合、恥かしがることも恐れることも少しもないはずだと思うと、すぐに不断のとおりの気持に帰ることができて、
「それでは始めていただきます」
 といいながら、書物を机の真中の方に持っていった。渡瀬さんもそのつもりらしく、上体を机の上に乗りだした。
 おぬいは何もかも忘れて、懸命にこの前教えられたところを復習した。第四読本は少し力にあまるのだけれども、書いてあることが第三読本よりはるかに身があるので、読むには励《はげ》みがあった。アーヴィングという人の「悲恋」(Broken《ブロークン》 Heart《ハート》)という条《くだ》りだった。星野さんがこの書物を始める時、目次によって内容をあらかた話してくれた時、この章に書いてあるのは、アイルランドのある若い勇ましい愛国者と、その婚約の娘との間に起った実際の出来事だといったので、おぬいにはよけい興味のあるものだった。渡瀬さんがこの前それを講義してくれた時も、おぬいは幾度となく美しい悲しさを覚えて、涙のこぼれ落ちそうになるのを
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