しました。
「もうくたびれてしまったんですもの」
子どもは泣《な》く泣くすわりこんでしまいます。
ところでそこにきれいなきれいな赤|薔薇《ばら》の色をした小さい花がさいて巴旦杏《はたんきょう》のようなにおいをさせていました。子どもはこれまでそんな小さな花を見た事がなかったものですから、またにこにことほおえみましたので、それに力を得て、おかあさんは子どもを抱き上げて、さらに行く手を急ぎました。
そのうちに第一の門に来ました。二人はそこを通って跡《あと》に※[#「饌」の「しょくへん」に代えて「金」、第4水準2−91−37]《かきがね》をかけておきました。
するとどこかで馬のいななくような声が聞こえたと思うと、放れ馬が行く手に走り出て道のまん中にたちふさがって鳴きました。その鳴き声に応ずる声がまた森の四方にひびきわたって、大地はゆるぎ、枝はふるい、石は飛びました。しかして途方にくれた母子二人は二十|匹《ぴき》にも余る野馬の群れに囲まれてしまいました。
子どもは顔をおかあさんの胸《むね》にうずめて、心配で胸の動悸《どうき》は小時計《しょうどけい》のようにうちました。
「私こわい」
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