事は知っていました。またそこに行く途中には柵《さく》で囲まれた六つの農場と、六つの門とがあるという事を、百姓から聞かされていました。
 でいよいよ出かけました。
 やがて二人は石ころや木株のある険しい坂道《さかみち》にかかりましたので、おかあさんは子どもを抱きましたが、なかなか重い事でした。
 この子どもの左足はたいへん弱くって、うっかりすると曲がってしまいそうだから、ひどく使わぬようにしなければならぬと、お医者の言った事があるのでした。
 わかいおかあさんはこの大事な重荷のために息を切って、森の中は暑いものだから、汗《あせ》の玉が顔から流れ下りました。
「のどがかわきました、ママ」
 とおさないむすめは泣きつくのでした。
「いい子だからこらえられるだけこらえてごらんなさい。あちらに着きさえすれば水をあげますからね」
 とおかあさんは言いながら、赤《あか》ん坊《ぼう》のようなかわいたその子の口をすうてやりますと、子どもはかわきもわすれてほおえみました。
 でも日は照り切って、森の中の空気はそよともしません。
「さあおりてすこし歩いてみるんですよ」
 と言いながらおかあさんはむすめをおろ
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