近勃興せる水平社運動の標語の中に『与へられたる自由はない』と言ふのがある。私は其の通りだと思ふ、迚《とて》も痛切なる自覚せる結果に依つて獲得したる制度なり習慣なり権利でなくては真に獲得者が之を我物として活用する事は不可能である。無辜《むこ》なる良民の特性夫は真に悲惨の極である。而も自然は平気で不断に之を実行して常に創造を行つて居る。人間の美しい感情の発動は之の無辜なる犠牲を払はしめまいと努力はする。而し結局之の自然の法則は除外さるゝ事能はず各種の疫病の流行とか革命の勃発により何の時代にも高い犠牲を払はされて居る様だ。
私は結局自分の行つた土地解放が如何なる結果になるか分らない。只自分の土地解放は決して自ら尊敬されたり仁人を気取る為めの行動ではなく自分の良心を満足せしむる為めの已むを得ない一の出来事であつた事を諒解して欲しいと思ふ。
[#地から1字上げ](『小樽新聞』大正十二年五月)
底本:「有島武郎全集第九卷」筑摩書房
1981(昭和56)年4月30日初版第1刷発行
2002(平成14)年2月10日初版第3刷発行
初出:「小樽新聞」
1923(大正12)年5月
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